2011年に入って、チュニジアに始まったアラブ諸国の民衆革命、そして3月11日の東日本大震災の発生とそれにつづく原発危機、世界中を揺るがすような大事件や大災害を経て、ソーシャルメディアの影響力が改めて注目されています。
とくにツイッターに関しては、日本におけるユーザーの拡大を背景に、この度の震災では、テレビや新聞などレガシーなマスメディアと比較して、情報の伝わり方、スピード、信頼性、参加性、そして危険度の検証など、様々な面からの議論がメディアやネット上で巻き起こりました。
普段はテレビがあって新聞があって携帯電話があって、そしてツイッターがあってという多重的な情報メディア環境に慣らされていた私たち生活者は、今回のような非常事態に直面して、ツイッターをはじめとする身近なソーシャルメディアがもつ本来の力を改めて実感しました。それは、ソーシャルメディアを活用している自分の力の“意外な”大きさに気づく瞬間だったのではないでしょうか。
それでは、ツイッターが普及することで生活者はどのように変化していくのでしょうか?このことは講演でも何度かお話していますが、私は以下の3つのポイントを指摘したいと思います。
1.より簡単に、タイムリーに情報発信や交換ができるようになった。
ツイッターは、従来のデジタルメディアと比較して、利用者の新規参加時の障壁を大幅に低減させ、かつ140文字以内というレギュレーションがコミュニケーションの頻度を飛躍的に拡大させました。つまり、より多くの人がその世界に関わることができるようになり、従来に比べて飛躍的に多数の情報の送り手を生み出すこととなったのです。
2.個人の情報伝播力と影響力がどんどん拡大している。
ツイッターを利用する個々の生活者が内包するメディア的なパワーが、ツイッター利用者全体母数の増加とともに急速に拡大しています。以下そのことを三つの視点で説明していきます。
視点① 自らのフォロワーの数が増える事によって、一言のツイートがより多くの人に届くようになります。もしあなたのツイッターアカウントを5,000人の人がフォローしていてくれれば、あなたは5,000人の読者がいるメディアのオーナーということになります。さらに、あなたのツイートした内容がとても興味深くて、それを見たフォロワーがリツイートしてくれれば、あなたのメッセージは、さらに広範囲に伝播していくことになります。
視点② 携帯端末の技術革新や写真や動画の送受信技術の進歩によって、リッチコンテンツの作成や送信の分野では、プロとアマチュアの垣根は事実上取り払われたという点。ある重大事件の現場に偶然に居合わせた人は、スマートフォンか携帯電話のカメラで取材し、その場で写真や動画を付けて事件に関するツイートの発信ができます。
視点③ 一人のオーソリティの意見より、アマチュアの集合知の方が、自分の知りたい内容にフィットする場合が多いという点です。価格comや食べログのような評価サイトの成功事例をみれば明らかですが、家電やレストランの評価に関して、その道のプロといわれるオーソリティの推薦コメントよりも、むしろ自分と同じような生活スタイルや嗜好を持つユーザーや来店経験者、また自分の事をよくわかってくれている知人や友人のお奨めのほうが、遥かに自分の心の琴線に触れてくる場合がありますね。
3.個人とプロがパーソナルに語り合う事ができるようになった。
ツイッター上では、その分野のプロフェッショナルや著名人と一般のユーザーが、ある話題に関してとても親密にコミュニケーションしている場面によく出会います。有名企業の社長にサービスの拡充を直接かけあったり、メーカーの商品開発者に商品の開発思想に関して直接質問をしたりと、従来は滅多になかったダイレクトなコミュニケーションが、今では当たり前のように行われています。
この3つのポイントが意味するところは、生活者ひとりひとりのメディアとしての潜在力が飛躍的に高まるという進化の実感です。ツイッターというソーシャルメディアの機能が人間を一気に変えていくのです。
まだ公式な数字を入手していないので想像で書いていますが、震災を経て日本におけるツイッターの利用者はまた一段と増加したと思われます。私の周りでも非常時連絡用に家族全員のアカウントを登録したという話を震災後何人かから続けて聞きました。
今後ツイッターが日本においてより一層コモディティ化し、なおかつツイッターユーザーのソーシャルメディアに関する理解(自覚)が進んでくると、個人と個人そして企業と個人のコミュニケーションはますます大きく変わっていくことになることでしょう。
私には、3月11日以降、日本のコミュニケーションやマーケティングは確実に次のステージに移っているという実感があります。