「ツイッター創業物語」

 「ツイッター創業物語」を読みました。副題には、金と権力、友情、そして裏切りという、なにやら週刊誌のような刺激的な言葉が並んでいます。私自身がデジタルガレージから現在のデジタルマーケティングにまたがってずっと係って来たツイッターの創業の物語ですから、読んでいてとてもリアルにその時代の空気を体感することができました。

 自分がツイッターの日本での普及活動を日々行っていたのが2009年の夏から2010年そして2011年にかけての約2年間です。この頃日本で活動している私たちの耳には、ツイッターは不安定なシステムと懸命に戦いながらも、怒濤の勢いで全世界でユーザー数を伸ばし着々と成長を続けているという力強い成功物語が伝わって来ていました。そして2011年3月11日の東日本大震災を契機にツイッターの力は多くの日本人にも知られることとなりました。

ツイッター創業物語の表紙の写真

 

 一方この本で語られている2009年という年のスナップショットはこんなふうでした。ツイッター揺籃期の主要メンバーであるノア・グラスはツイッターの創業の歴史に加えられる事なくすでに消えていき、最初のCEOだったジャック・ドーシーも突如一方的に解任され、エヴァン・ウイリアムスがCEOとしてツイッターの指揮をとっていた。そしてもう一人の共同創業者であるビズ・ストーンはツイッターの広報活動の顔として世界中を飛び回っていたわけです。当時ビズが講演でよく使っていた「ツイッターはTriumph of Humanity」というフレーズに、私はとても共感しました。

 「ツイッター創業物語」に書かれているのは、そんな成長とは裏腹に繰り広げられるツイッター社内、とくにマネジメントメンバー間の権力争いと功名の奪い合いの凄まじさです。秘密裏に周到な準備で株主達を味方に付けながら取締役会を舞台とした繰り返される権力闘争は本当にドラマさながらです。なんだか伝説的なロックバンドの暴露本でも読んでいるような気分になりました。バンドで権力をふるっていたリードギターが、レコード会社を味方に付けた他のメンバーに追い出されるシーンを想像したのです。

 サンフランシスコから東京のデジタルガレージに来て、講演やパーティで颯爽としているエヴァンやビズの姿しか知らない自分にとっては、唖然というか少し切ない気分になってしまいます。

 

 ソーシャルメディアが内包する存在意義というものは、そのサービス自体が成長し増殖する過程において、開発者の思惑や理想などを軽々と凌駕し、利用者の置かれている環境やその人間性を映す鏡として日々刻々と変容していくものなのです。本のなかでジャックとエヴが各々が考えているツイッターの役割が違っいると対立する場面がありますが、結局ツイッターユーザーにとってはそんな事はどうでもいいことで、皆自由にツイッターを道具として活用し、自分の考えを全世界に発言していきます。まさしく「Triumph of Humanity=人間性の勝利」というわけです。

 さらにもうひとつ、ジャック・ドーシーの切れ者ぶりと悪人ぶりは圧巻です。Jackの章はとくに読み応えがあります。

 まだ読まれていない方はぜひおすすめの一冊です。